研究者を目指し、脳が作られる仕組みを研究
「細胞の外」の環境に注目
研究者を目指し、脳が作られる仕組みを研究
大学院農学府 農学専攻
2年 武渕 明裕夢さん
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脳の形成過程について研究し、「日本生化学会 若手優秀賞」や「日本糖質学会 ポスター賞」を受賞した大学院農学府 農学専攻2年の武渕 明裕夢さん。本学の大学院博士課程または博士後期課程への強い進学意思があり、学業成績が優秀である等の条件に該当する学生が選ばれる「bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@遠藤章奨学金※」奨学生でもあります。研究者を目指し、研究に励む武渕さんにお話を聞きました。
(※)bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@遠藤章奨学金
「スタチン」と呼ばれる血中コレステロール値を下げる物質を発見した遠藤章特別栄誉教授から、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@修学支援事業基金へ寄附された原資に基づく奨学金。本学に在籍するグローバル人材になり得る優れた学部学生であって、経済的理由により修学に困難がある学生に対し、学部学生の期間及び内部進学後の大学院学生の期間について、引き続き奨学金を給付することで学業の支援を行うことを目的として設立されたもの。
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どんな研究をしていますか。
脳にはいろんな機能がありますが、脳に存在する多くの神経細胞は胎児期に作られて、そこから増殖することはありません。
また、よく、子どもは頭が柔らかく、大人よりも言葉などの習得が得意、などと言われますが、実は大人と子どもの脳の違いに、細胞の外の環境が関わっていることがわかっています。このように細胞の外の環境は細胞の機能を制御するうえで重要な役割を果たしています。
私は、胎生期に脳が形成されていく過程で、細胞外の環境が神経細胞にどのような影響を与えるかを研究しています。
私たちの脳の表面には「大脳皮質」という層があり、認知や記憶などをつかさどる重要な役割を果たしています。大脳皮質は胎児期に形成されますが、この過程に異常が生じると発達障害や精神疾患を引き起こすと考えられています。
大脳皮質は、胎生期に、神経幹細胞が伸ばす線維に沿って、未熟な神経細胞が脳の表面側に移動することで作られますが、その形成過程で細胞外の環境にどのような機能があるかまだ十分にわかっていません。
そこで、神経細胞の周りにある物質が、大脳皮質の移動にどんな役割を果たしているかを知るために、大脳皮質形成時のマウスを調べてみたところ、大脳皮質で「ヒアルロン酸」「ニューロカン」「テネイシンC」の三つの物質の複合体が形成されることがわかりました。これらの物質をなくすと大脳皮質形成に異常が生じることから、脳の形成においても細胞の外の環境が重要な役割を果たしていることを解明しました。
胎生期に脳が作られる分子機構の一端を明らかにしたこの研究成果を学会で発表し、昨年11月に「日本生化学会 若手優秀賞」、12月に「日本糖質学会 ポスター賞」を受賞しました。今回見出した分子のうち、「ニューロカン」は双極性障害と関連しているため、この成果は、精神疾患の発症機構の解明にも役立つと期待されています。
博士課程に進むことを決めているので、学生生活はあと約4年。これから色々なことに派生させていきたいですね。
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研究の魅力はどんなところですか。
研究はすごい人がやっている、というイメージがあったのですが、実はまだ知られていないことはたくさんあり、自分でも新しく解明することもあると知ったとき、とても驚きました。研究を進めるのはすごく楽しく、特に論文を読みながら、どんな可能性があるかな、と考える時間が好きです。もちろん、実験もおもしろいのですが、自分の考えた説に合う結果が出るかわからないので、実はひやひやしています。
研究を進めると、調べたいことがどんどん出てきて、時間が足りません。進め方に迷ったときは、宮田先生に相談して、アドバイスをいただいています。先生と1対1で、研究について1時間話すことも、めずらしくありません。先生との距離の近さは、農工大のいいところだと思います。
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小さいころから研究者を目指していたのですか。
研究者を目指すと決めたのは、大学4年生の時です。
実は、私は小学生のころはあまり勉強が好きではありませんでした。高校1年生のときの将来の夢は「料理人」で、大学に行くつもりもなかったんです。
料理人は、かっこよくて、楽しそう、と思っていたのですが、料理人の世界は、競争が激しく、厳しいことで知られています。そこで、食品の会社で、開発の仕事ができれば、安定した環境で自分の好きな料理に関わることができると考えました。興味のある食品会社について調べてみると、農工大の先輩たちが多く入社していることがわかり、農工大農学部の中でも、食品の開発に近い勉強ができる応用生物科学科を志願先に選びました。
農工大に入学して、1年生から3年生まで、楽しく充実した学生生活を送っていたのですが、料理人への道を選ばなかったことには、心残りがありました。自分の選択に、もやもやした気持ちを持っていた中で、細胞外の環境に関する研究に出合い、研究者を目指したいと思いました。
もちろん研究者を目指しても、険しい道のりが待っています。悩んだのですが、料理人への道をあきらめたときのような後悔をしたくないという思いで、決断しました。
研究者を目指したいと思えるほど、熱中できる分野に出合えたことは、とても運がよかったと思っています。
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課外活動やアルバイトなど、農工大の学生生活について教えてください。
大学1年生のときから、有志でダイビングを行っていました。コロナ前は、みんなで沖縄へダイビングに行ったことが良い思い出ですね。それと、東南アジアを中心に海外旅行にも行きました。中でも、タイは食べ物がとても美味しかったです。
昨年11月には、同じ応用生物科学科の野村義宏先生の研究室の学生さんと一緒に福島県に行き、小学生にサイエンススクールを実施しました。アジサイの花の色が土壌の酸度で決まることを伝え、果物の色素が、酸性?アルカリ性により色が変わる実験をしました。小学生にいかに科学が身近なものか伝えることができ、良い経験になりました。
また、先輩に声をかけていただいて、府中市の小中学生の学習支援に参加したこともあります。これは、地域のNPOのサッカースクールに通っている子の中で、勉強したい子を集めて勉強を教えたりするものです。
アルバイトは、家庭教師や、ドーナツショップのキッチンでの調理などを経験しました。今も続けているフライドチキン屋さんのアルバイト先には、農工大の先輩もいます。
4年生までは、平日は研究をして土日は生活費を稼ぐため1日中アルバイトをしていたのですが、昨年4月から遠藤章奨学金をいただけるようになり、以前よりアルバイトの時間を減らせるようになりました。研究に費やせる時間が増えたため、複数の研究テーマを同時に進め、より多くの知識?経験を得ることができています。研究者を目指すと決めたときは、アルバイトと研究の両立ができるのか不安でしたが、遠藤章奨学金奨学生に選んでいただき、博士課程進学の決断を後押ししていただいたことに、とても感謝しています。これからも知識を深め経験を積み、遠藤章先生のように世界で活躍できる研究者を目指したいと考えています。
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地方のご出身ですが、一人暮らしはいかがですか。
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出身は、石川県金沢市です。東京と言っても、農工大の周りは都心とは違いゆったりしているので、上京してから、それほど衝撃を受けたことはありませんでした。びっくりしたのは、駅付近の駐輪場が有料だったことぐらいですね(笑)。
一人暮らしでは、自炊をしていますが、研究で忙しいとき、料理はよい気晴らしになります。ミートソースを作り置きしているのですが、友達にも好評で、レシピを教えてほしいと言われることもあります。
受験生に向けてのメッセージをお願いします。
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私が応用生物科学科を現役で受験した時は、合格点に200点足りませんでしたが、浪人の1年間、一生懸命がんばったことで、合格できました。このどんなに厳しい状況でも頑張れば目標を達成できる、という経験は大学入学後も困難に直面したときに役立っています。勉強はとても大変だとは思いますが、必ず良い経験になるので頑張ってください。応援しています。
(2022年5月9日掲載)
関連リンク
- 大学院農学府
- 農学部応用生物科学科
- 武渕明裕夢さんを指導する宮田真路准教授
研究者プロフィール
研究室WEBサイト - 第94回日本生化学会大会「若手優秀賞」受賞
- 第23回日本糖質学会ポスター賞(日本糖質学会ウェブサイト)